【講 師】
同志社大学客員教授・フランス国立労働経済社会研究所客員研究員 山内 麻理 氏
公益財団法人東京フィルハーモニー交響楽団広報渉外部長・株式会社経営共創基盤(IGPI)顧問 松田亜有子 氏

【モデレーター】:株式会社HR ファーブラ 代表取締役 山本 紳也 氏

 ハーバードの授業で絶賛のJR東日本の「新幹線お掃除劇場」。KAIZENで有名なトヨタの強い現場力。
戦後の成長を支えてきたブルーカラーの慣行は、ホワイトカラーの慣行にも大きな影響を与えてきました。しかしながら、成熟経済下では、戦後のプラットフォームでは飛び抜けた才能を評価できず、残念なことに、稼ぐプロ人材から海外に流出し、日本の国力の大きな損失になるのではないでしょうか。

 今回のHRカフェは、グローバルが当り前となったビジネス環境で競争力を維持・成長するための組織、そして個を活かす環境を考える」というチャレンジングなテーマ。このテーマを説くにふさわしい講師はビジネス×学術的に、グローバル・シチズンの視点を持つ山内氏、そして100年以上の歴史を持つ日本最古のオーケストラ「東京フィルハーモニー交響楽団」と経営共創基盤(IGPI)の現場で責任者としてハンズオンしてきたユニークな経験をもつ松田氏。このお二人の知見を最大限に引き出すのは、グローバルが当り前となったビジネス環境で競争力を維持・成長できる組織と個の新しい関係のあり方を追求してきた山本氏。この豪華な最高のキャスティングとなりました。

 最初に山内氏から、ダイバーシティの目的は「多様な考え方の活用」であり、単なる数合わせではないと提言。例えば、「不確実性回避志向」が高い日本では予めルールを決めることが好まれるが、海外では状況がわかってから対応することを好む人も多く、その両者に長所と短所があると説明されました。

グローバル・シチズンの視点を持つ山内氏

 次に、「日本の現場力、礼儀正しさ」は世界的に賞賛され「日本的長期雇用」は海外でも特にブルーカラーから評価が高い反面、「年功や遅い昇進」は海外のホワイトカラーからは評価され難いこと、また、「CEOの内部昇進比率の高さ」は、同質ゆえにユニークなアイデアを排除する可能性が高いと指摘。そして、低い国際性や社会の閉鎖性、空気で判断する「High context」のコミュニケーションスタイルにより、一歩外に出ると外国人と渡り合うことが難しく、国際的なエグセグティブのネットワークに入れていないと指摘。大企業ほどダイバーシティ進展が遅く、且つ、日本が強い産業で日本型人事の特徴が大きく、女性活躍が低い傾向があることを説明されました。

 また、日本企業を取り巻く圧力を、「同質な圧力(少子高齢化と低成長)」と「多様な圧力(グローバルな競争圧力技術・製品の進化など)」の2種類に分け、企業は前者より後者により真剣に対応、その結果、雇用システムの多様化が進展していると指摘。国際競争に晒されている「医薬や証券」は変化が速く、製造業の多くは日本型の強みを輸出しながら本部のグローバル化を推進、国際的競争圧力の低い「メディアや教育、公的部門」は伝統的な日本型から抜け出せずにいると指摘されました。また、最近の対外直接投資はサービス産業が牽引、「ユニクロ」「すきや」などの例を挙げサービス業による強い現場力の輸出に期待されました。

 松田氏から、世界に伍していくには、経済と文化の両輪が必要であり、海外に進出する企業はビジネスの名刺以外に文化の醸成に貢献しているもう一枚の名刺を持たないと、欧米の輪に入れないと事実を紹介。東京フィルは財界のトップからの信頼を得たうえでの協賛があると紹介をしました。

圧倒的に働き、周りを動かしてきた松田氏
熱が入る松田氏を見守る山本氏

 オーケストラのマネジメントをバックオフィスの責任者として支える松田氏は、経営もオーケストラも同じで、お客様に夢を与える時間を売るというゴールに向けて、指揮者という経営者、東京フィルの楽団長(各ビジネスの責任者)の両輪が必要で、それをバックオフィスが後方支援による三位一体の体制が重要で、オーケストラが共鳴、質が高まると説明をされました。

 次に、オーケストラはひとり一人プロであるが、2名以上の集団になると、妥協の集団になる、多様な人材であればあるほど、融合は難しいという合成の誤謬を説明したうえで、その解決には圧倒的な指揮者(経営者)の配置が重要とし、リーダーの軸にアンサンブルの組み合わせこそが、最高の時間という価値をお客様に提供できるとしました。東京フィルでは、指揮者を誰にするのか、世界中からサーチをしてアサインにこだわるとしました。

 最後に、秀でたリーダーの共通点は「天分と圧倒的な努力」とし、ものすごい量の練習を重ねて、本番に挑んでいるとし、組織を引っ張るリーダーは、突き抜ける圧倒的な努力と圧倒的な天分が必要であり、組織を引っ張り、ゴールに一緒にたどり着くには、そのような力を持つヒトがやるべきだと主張されました。

 山本氏から、「経営から尖った人材の不足感を感じているが、なぜ下からヒトが育たたないのか」「終身雇用のため、視野が狭くなっているのではないか」と問題提起をされました。

 次に、最近、社外取締役として、女性が増えているが、外部から採用すればよいという数合わせの発想に終始していることや、政府から顧問相談役の廃止までも言われ、ガバナンスをされることの残念さ、欧米のエグセグティブは圧倒的に働き、知識量もダントツである事例を紹介されました。

 最後に、日本の企業でも、特に自動車メーカーは日々変化をしていることから強くなり、大きな変化を必要としないこと、空気のデジションメイキングで終始するのではなく、日常の議論を通じて、経営が決断し、それを支える組織が愚直なる実行、失敗や尖った人材支援の重要性を指摘して終了となりました。

難しいテーマにチャレンジする講師からのメッセージに耳を傾け、共感する方が多くいらっしゃいました

執筆:執行役員(HRカフェ担当) 武田 行子