ちょうど創業1 年、豊かな写真文化を創造しようと活力に溢れる株式会社フォトクリエイトを訪ねました。インタビューしたのは30 代にして人事総務部長を務める新井徹平氏。営業部門での活躍を経て人事総務部長に就いた同氏は、人事業務では何に力を入れているでしょうか。事業を熱く語る様子に押されつつ、お話を伺いました。

聞き手:インサイト編集部員 荒川 勝彦

株式会社フォトクリエイト 管理本部人事総務部長 新井 徹平 氏

ゲスト:株式会社フォトクリエイト 管理本部人事総務部長 新井 徹平 氏
2005年、当時社員数4名だった同社に新卒第一期生として内定(翌年入社)。新規事業担当マネジャー、フォトクラウド事業部長などを経て2014年より現職。
大学時代は体育会スポーツ新聞部編集長だった。趣味はランニングで、100kmのウルトラマラソンを完走した。高知の「龍馬脱藩マラソン大会」には毎年出場している。

<会社プロフィール>
株式会社フォトクリエイト
2002年1月24日、インターネット写真業を目的として東京都杉並区に創業。「感動をカタチにしてすべての人へ」を経営理念に掲げ、現在はインターネット写真サービス事業、フォトクラウド事業、広告・マーケティング支援事業を展開する。本社は東京都新宿区。


荒川勝彦(編集部会) 本日は株式会社フォトクリエイトの人事総務部長、新井徹平様にお話を伺います。まずは御社の概要、事業内容について教えていただけますか。

新井徹平氏(株式会社フォトクリエイト人事総務部部長) 創業は2002年1月。皆さん廊下に張り出された学校行事の写真を買った経験があると思いますが、同様のことをインターネット上で行っています。現在はスポーツ大会やバレエ、吹奏楽、地域のお祭りなど、年間7万件を超えるイベントを扱っています。プロスポーツ選手や芸能人ではない、一般の頑張っている人たちの姿を、プロカメラマンが撮った良質な写真で残すことがコンセプトです。
 日本は肖像権など、個人情報の取扱いに慎重ですから、創業当時は学校などの守秘性の高いところでは猛反対を受けました。マラソン大会など、屋外イベントの写真を中心にスタートし、認知度の高まりに合わせて、学校関係でも利用していただけるようになってきたところです。
 事業内容としては、インターネット写真サービス事業は、イベント主催者に提案し、撮影権と販売権の許可をいただきます。撮影は日本中のフリーカメラマンに発注してお願いしますが、イベントに合わせた効果的な撮り方など、ディレクションも行っています。
 私も入社当初、この事業の営業として全国を飛び回っていました。地方の少年野球マイナー大会で、ある少年のホームランを撮影できたときのことです。webサイト上のメッセージ欄に「ありがとうございます、実はこれがこの子の人生初ホームランだったのです。一生の記念になりました。撮っていただいて本当にありがとうございました」とコメントが寄せられたのです。それを見て、本当にこの事業がひとの人生に大きな影響を与えるのだと実感しました。と同時に、そんな強烈な、人生初で一度きりの思い出に関わるという、責任の重さと怖さを痛感し、企業理念との答え合わせができた経験でもありました。弊社の企業理念を体現する中核事業です。
 広告・マーケティング支援事業は、「BtoB」の事業です。ジャンルごとに分かれている販売サイトへの広告掲載を提案しています。例えばマラソンページであれば、見ている人は100%ランナーです。当然一般的なテレビCMより純度の高い広告が打てます。
 また、最近ではBリーグのオフィシャルフォトエージェンシーになりました。全国で年間1000試合以上あり、その全てで魅力的な写真を撮るとなると、カメラマンの手配や写真の保管、整理も大変です。そこで弊社が写真販売用に培ってきたカメラマンネットワークと画像管理システムをBリーグ用に調整して、提供しています。このようにIT技術を含めた自社の強みを転用し、いろいろな展開を検討しています。
 フォトクラウド事業は、既に写真を撮影、販売されている事業者に向けて、ネット販売の仕組みやノウハウを提供するというものです。例えば結婚式では、参列者の方々の写真は、撮影されても販売されることはありません。現在では日本で挙式されるカップルの1/4が、弊社サイトの「グロリアーレ」を利用していただき、参列者の方も気軽に写真購入できるようになっています。フォトクラウド事業で現在注力しているのは、地域の写
真館です。地域の写真館は産業や学校と深いつながりがあり、既に多くの思い出を蓄積されています。卒業アルバムの制作など、日本独特の豊かな写真文化を支えてきたのはこのような写真館です。ただ、今はカメラの普及や後継者不足で経営難で苦しんでおり、このままでは膨大な思い出が失われてしまいます。また、写真の販売方法は従来のままで、インターネット化されているのは10%ぐらいだと言われています。これまでは公立の小中校が、インターネット化に否定的だったからでしょう。
 以前は弊社も、地域の写真館から「自分たちの産業を荒らす敵」という、黒船のように見られていた時期もありました。その営業は怒られに行くようなものでしたが、それでも弊社のビジョンである「フォトライフ構想の実現」について粘り強くお話させていただき、ご理解いただいてきました。全ての人が通う学校という場で、写真サービスを扱うことは、全ての人のライフシーンにおいて、よりよい写真を残し、人々に感動のきっかけを提供するという、弊社のビジョンを実現するためにも欠かせない部分です。全国の写真館とパートナーシップを組み、写真館の経営が強くなれば、膨大な写真がネット上に届けられるでしょう。もちろん市場規模の大きさもありますが、何より弊社の企業理念に合致した事業なのです。

◆多様で戦略的な社内イベント

毎年出場の高知「龍馬脱藩マラソン」(左:ご本人)

荒川 御社の社内イベントについてもお聞かせ下さい。

新井 大きなイベントでは、年に1度開催する「フォトクリエイト記念撮影会」です。昔は年に1度、家族写真を写真館に撮りに行ったものですが、今は写真を残す文化が希薄化しています。じゃあフォトサービスを提供する自分たち自身は写真を残そうとしているの? というところから出発したイベントです。普段は撮る側の私たちが逆に撮られる側に回ることで、写真を残すことの価値を広めたいと考えています。友人、家族などを会社に招き、実際に体験してもらうことで、仕事に対する家族の理解も深まります。「いい意味での公私混同」として成功しているイベントです。他には皆でアロハシャツを着よう、という「アロハデー」があります。全員で着て、「今日はそういう日なのです」と説明すれば取引先などにも失礼にならない、完全に定着したイベントです。
 また「東京マラソン」は業務であると同時に、弊社最大のイベントです。約100人のカメラマンが3万6000人のランナーを撮影し、多くの社員が撮影のサポートで現場に入ります。開発やオペレーションなど、いつもは間接的にしかお客さんと接点のない部署の社員にとって、東京マラソンは自社業務の意義を目の当たりにできる貴重な機会です。


◆若手の感性を信じて、生かす

荒川 イベント幹事を入社1、2年の若手に任せているということですが。

新井 やはり若いほうが感性も豊かで柔軟です。われわれ30代以上と若手では、もう感覚が違います(笑)。インスタグラムなどを見ると10代、20代の若者たちの感性によって、写真文化が日々進化しているのが分かります。若い社員に実務運営上の経験を積ませる目的もありますが、彼らの感性を発揮させ、いいものは現業に活かしていきたいという狙いもあります。仕事にも遊びにも一生懸命な彼らの企画力はとても高いのです。これからは、もっといろいろなアイデアを出しやすい仕組み作りをしていきたいと考えています。

荒川 人事としてはどのように関わっていますか。

新井 基本は任せて見守り、必要なときには助けに入ります。社内イベントは、ある程度ノウハウの蓄積が必要です。運営スキルは適宜提供し、コンテンツ作りなど、彼らの発想が存分に生かせるポイントに集中できるよう、フォローしています。



◆メンタルヘルスのイメージを変える

荒川 人事の業務で力を入れていることは何でしょうか。

新井 人事、総務、法務の3分野をカバーしています。私もプレイヤーとして動きます。
 まず採用ですが、最終面接前には全員私が面接しています。かなり時間がかかりますが、効率性を求めず、しっかり吟味して「いい出会い」を生む努力をしています。
 もう一つは、労務のメンタルヘルスです。特に若手には多様なチャレンジさせているので、当然失敗も増えます。一生懸命やったからこそつらくなっている人間をいかに早期発見してケアするかは重要です。「メンへラ」というネガティブな言葉がありますが、そうではなくて「メンタルヘルス」にポジティブな印象を持つようになっていってほしいと思っています。
 私自身、以前は営業部長として新規事業に携わっていましたが、根を詰めすぎてしまった経験があります。そのときに、ケアされることの大事さを痛切に感じました。誰にでも不調は起こりうるのですから、ネガティブに捉えず、当然のこととして社員会でも訴えています。アメリカでは、社長が就任前にメンタルトレーニングを受けるのは当然だと聞きました。誰でも失敗する可能性がある、ならば当然落ち込む前に予防する対策を取るよね、という考え方です。同様に、メンタルヘルスへの意識を変えて、気軽にカウンセリングが受けられるよう文化を創りたいと発信しています。
 先日、専門機関に呼ばれて社外で講演する機会があったのですが、「カウンセリングを受けることを前向きに捉えるようにしよう、カウンセリング受診は一つのトレーニングだと発信していこう」と言ったところ、プロのカウンセラーの皆さんからとても賛同いただきました。このように社内でも言い続け、社員の意識も変わってきたなという印象はあります。

◆面談のもつ力を見直す

荒川 具体的にはどのような仕組みがありますか。

新井 まず厚生労働省の出している「労働者の心の健康の保持増進のための指針」にある、4つのケア(1.自己、2.ライン、3.産業保健スタッフ、4.事業外資源それぞれによるケア)を行います。そして、ストレスとは何か、チェック結果の受け止め方などを全従業員に指導し、しっかりと効果につなげています。
 弊社では9割の従業員がきちんとチェックを受けてくれています。マネジャー層にも早期発見の重要性が伝わり、以前より上長の人間が気軽に相談にきてくれるようになるなど、メンタルヘルス全般をポジティブに表現してきた成果が出てきています。

荒川 人事でも面談時間を確保してケアしているのでしょうか。

新井 入社後1年目は、新卒、中途の区別なく4回の面談を行います。評価面談の際にも対話を重視し、不調を見つける機会にしています。自分から発信できない人は、パフォーマンスが下がっていないかなど、普段から観察するように努めています。また残業が一定時間に達すると、産業医の面談を受けてもらっているので、早めのケアはできています。むしろキャリアへの迷いやポジションの変化など、仕事量とは関係ない部分で起こりやすいのです。
 一生懸命やっていれば、失敗や落ち込みは当然です。やはり若いうちは、メンタルヘルスを「恥だ」と感じて隠す傾向があるので、気をつける必要があります。

◆時代が社風に追いついた

荒川 「ママが働きやすい企業」として受賞歴もお持ちです。女性活躍のために、どんな施策をされていますか。

新井 実は、特別な制度はありません。そもそも「家族を大事にする」社風なので、会長をはじめとして、家族の体調不良や子どもの学校行事で仕事を休むのは当たり前なのです。現在、時短ママ社員が営業部長や広報PRを担当していますが、女性の活躍を意識しているわけではありません。優秀な人が女性でママになり、時短勤務でも彼女たちの能力ならできる、それだけです。
 弊社は従業員の女性比率は全体の半分。営業では7割になります。当然結婚、出産も多いですが復職率は100%です。今後は、子育て経験を活かせる部署への移動など、柔軟に管理できる仕組みを考えたいと思っています。


◆会社のこれからを見据えて

荒川 今後の課題について教えてください。

新井 上場や企業の拡大に伴い、変化に対する柔軟性や新鮮な驚きが減ってきたと感じています。さらに成長するためにはダイナミズムを取り戻す必要があるのです。

荒川 成長のS字カーブですか。

新井 そうです。成熟期を経て、いつの間にか枠にはまってきた面があります。社員一人ひとりは、まだチャレンジ精神にあふれています。人事や各事業部長、マネジャーが連携して枠組みを外し、社員のコミュニケーションから生まれる斬新な発想を、企業体力や競争力につなげていきたいと思います。
 同時に、現在の収益基盤を守る必要もあります。何を残し、何を捨てるのか。企業のゴーイング・コンサーンに向けて、今はまだその線引きをしている最中です。
 実はこれまで撮影してきた写真は1枚たりとも消去していません。大体7億枚を保管しています。今日の写真も10年経てば「10年前の思い出」です。リアルタイムで写真を届けると同時に、世代を超えて写真を残し、時空を超えて思い出を届けることに挑戦したいと考えています。未来の若手社員にそのたすきを繋いでいきたいと思います。

◆人事の持つ影響力を再確認する

荒川 ご自身の人事に対するこだわりを教えてください。

新井 間接的でも、より経営に近いところで全てをジャッジし、意思決定していくところは、人事の醍醐味だと思います。
 今考えているのはミドルマネジメントの人たちにも、経営者視点での意思決定ができるように導いていくことです。人事だけで問題意識を投げかけるのではなく、彼らも経営と連動し、若手の育成に力を入れてくれれば、強い組織になると思います。ミドルマネジャーたちの成長は、企業が成長するためのドライブになると思うので、今後は彼らとの意識共有にも力を入れていきたいと考えています。
 人事総務部内では、人事としての考え方や判断軸が、経営者や現場の価値観とずれないように意識しています。人事の立ち位置や経営に対する関わり方など、一つひとつの事象を取り上げつつ、どう捉え判断し、行動していくのかを、メンバーにはしっかり伝えるようにしています。会社の考え方に沿った施策をしなければ、かえって社内が分断される危険性もあると思います。

荒川 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

新井 私もまだ人事部長になって2年半なので、毎日が学びの連続です。日々、人事の業務の陰と陽を感じる一方でその重要性も実感しています。ただ、仕事のやりがいや面白みは、自分が面白いと思う努力をしているかどうかだと思います。人事はなかなか目立って賞賛を浴びることも少なくない仕事ですが、意義を感じる努力を続けて、皆様と切磋琢磨していけるよう頑張って参ります。

荒川 本日はありがとうございました。